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『地上最後の刑事』ベン・H・ウィンタース

読書

 

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ファストフード店のトイレで保険会社勤務の男が首を吊って死んでいた。未来を悲観して自殺したのだと思われる。珍しくもないことだった。半年後に迫った小惑星と地球の衝突、人類の壊滅が宣言されてから、自殺者は増えている。

だが現場を見たコンコード警察のヘンリー・パレス刑事は、男の持ち物で首吊りに使ったベルトだけが高級品であることに気づき、違和感を覚える。同僚の刑事や検事補、検視官にも白い目で見られながら、パレスは他殺の可能性を調べる。

あと少しで終わってしまう世界なのに、それでも捜査を続けることに意味などあるのだろうか。

 

面白かった。

設定としては終末SF+警察ミステリ。小惑星マイアの衝突が宣告されてから自殺者が増えた通称“首つりの町”コンコードを舞台に、世界が終わるときまで愚直に刑事としての責務を果たそうとする若い男の物語。大量の警察官が死ぬまでにやりたいことリストを実行するため早期退職し、警官としての経験が浅いまま人手不足で刑事に昇格したヘンリーは、警察学校で習った手順やテキストを頭の中で思いうかべながら現場を検証する。

当初ヘンリーに味方はほとんどいない。誰もが、気が狂って首つりなんて、このご時世では珍しくないと思っている。検事補のドッセスに至っては「君が殺人にしようとしてる例の事件」と、いやみったらしく言う。

それでもヘンリーは最後まで刑事の責任を放棄しようとはしない。なぜ彼は終わりが近づく世界でPOLICE MANでいられるのか。他の人間のように諦念を抱えている訳ではない。あきらめて日常を送ってるのとは断じて違う。かと言って警察官としての矜恃でもない。彼は煙たがられながらも愚直に自分の職責を全うしようとする。それが終末の世界で彼に正気を保たせてもいる。

淡々と、ただ淡々と淡々と。終わろうとしてる世界の日常と真相に迫る刑事の道程が描写されているところに、とても好感が持てた。

『地上最後の刑事』では事件の捜査を縦糸に、ヘンリーの妹ニコとの関係が横糸に据えられている。ろくでなし男と付き合っているニコ。初登場時は気弱でヒステリックなやかましい女の印象を与えるが、最後まで読むとその姿が一変し、次巻以降(本書は3部作の第1作)に強烈な引きとなる。

語られる事件の真相も、最後まで刑事たらんとしたヘンリーに待ち受ける仕打ちも、世界観を活かしたほろ苦いもの。

MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞最優秀ペイパーバック賞の看板に偽りない秀作だった。2巻以降の邦訳も待たれる。

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