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『黒い森』折原一

読書

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何を楽しみに本を読むかという問いは電子書籍が台頭し始めた現在、より今日的な問題になっているように思われる。紙をめくる感覚であったり、手に取ってみないと伝わらない装丁の工夫だったりを挙げる人も少なくないだろう。

折原一の『黒い森』には少し変わった仕掛けが施されている。本の両面どちらから読むかで物語が違うのだ。ひとつの事件を『生存者編』と『殺人者編』から語っており、ふたつの物語は背中合わせの関係にある。

表(と便宜上呼ばせてもらう)の『生存者編』は早乙女樹里という女性が主人公。駆け落ちの約束をした留美夫から連絡を受け、行き先不明のミステリーツアーに参加した彼女は、樹海探検ツアーで恐怖の1日を過ごすことになる。

裏の『殺人者編』は留美夫視点で語られる。彼もまた樹里からミステリーツアー参加の連絡を受け、旅の終着点で彼女が待っていると信じ樹海探検に参加する。だが、その裏では恐るべき連続殺人鬼が暗躍し、ツアー参加者を次々に殺めていた。

本の中程でふたつの物語は交錯し、解決編となる袋とじ『206号室』ですべての謎が明かされる。樹里と留美夫を樹海に呼び寄せ、他のツアー参加者ともども殺そうとしたのは何者なのか、奇妙なツアー客たちの目的は。

本書の最も面白い部分は何か。それは間違いなく本の造りだ。表裏どちらから開いても1冊の本になるよう、表紙から奥付まで用意されている。電子書籍版では再現することができない仕掛け。

ちなみに電子書籍版では作者オススメの順番に則り、『生存者編』『殺人者編』『206号室』の順番で物語が整理されている。

物語の展開や真相の部分は、凝った仕掛けの割には小粒と言わざるを得ない。スティーブン・キングの『シャイニング』じみた逸話を持つ樹海奥のログハウスに、奇妙なツアー客たちがやって来て一人ひとり殺されていく『殺人者編』は、1冊をふたつの物語で分けたため紙幅が足りないと感じた。

『206号室』で明かされる真相は、ここまでの仕掛けを施した割には……。

『生存者編』と『殺人者編』は語り部こそ入れ替えてあるが、基本的には同じ文章が続く。そのためノベルゲームの共通ルートを2回やってから、個別ルートに入るような冗長さもある。

しかし、冒頭で述べたように本を読む楽しみは何種類かある。『黒い森』に関して言えば本の造り、凝った仕掛けの部分が最大の特徴だ。このギミックを味わうためにも、読む際は紙書籍版をオススメしたい。

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