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『中間管理録トネガワ』の悪魔的な面白さ

漫画 読書

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皆さんは『中間管理録トネガワ』という漫画……いえ、利根川幸雄という人物を知っていますか?

彼は漫画『賭博黙示録カイジ』のサブキャラクターで、主人公・伊藤開司(かいじ)が対決する、いわば中ボスです。彼との対決を乗り越えることにより、自堕落な生活を送るだけの屑だったカイジが主人公として覚醒していきます。

1996年から連載が続いているカイジのなかで、トネガワが登場するのはシリーズの初期作のみ。カイジに敗れ意地の焼き土下座を披露してからは、グループ内で失脚したとだけ語られています。

にもかかわらず、連載開始から20年を経て、スピンオフ漫画の主役に抜擢されました。

なぜ利根川は人気なのか

カイジの前に立ちはだかった、最初の高い壁だから。ということにプラスして利根川の場合、屑どもに語る人生訓が読者の心をとらえました。

利根川先生の主なお言葉

  • F×ck You ぶち殺すぞ………ゴミめら……!
  • おまえらの甘え、その最たるは今口々にがなりたてたその質問だ。質問すれば答えが返ってくるのが当たり前か? なぜそんなふうに考えるバカがっ! とんでもない誤解だ。世間というものは、とどのつまり、肝心なことは何一つ答えたりしない。住専問題における大蔵省、銀行、薬害問題における厚生省、連中はなにか肝心なことに答えてきたか。答えちゃいないだろうが。これは企業だから、省庁だからってことじゃなく、個人でもそうなのだ。大人は質問に答えたりしない。それが基本だ。お前たちはその基本をはきちがえているから、今朽ち果てて、こんな船にいるのだ。無論中には答える大人もいる。しかし、それは答える側にとって都合のいい内容だからそうしているのであってそんなものを信用するってことはつまりのせられているってことだ
  • 世間はお前らの母親ではないっ…!おまえらクズの決心をいつまでも待ったりはせん
  • 勝たねばダメだっ! お前らはシャバでの闘いに負けて負けて今ここにいる、折り紙つきのクズだ。今日はそのクズを集めた最終戦。ここでまた負ける奴、そんな奴の運命などオレはもう知らんよ。そんな奴は、もう本当にどうしようもない
  • 金はな、命より重いんだっ! 世間の大人どもが本当のことを言わないならオレが言ってやるっ。金は命より重い。そこの認識をごまかす輩は生涯地を這う!

借金で首が回らなくなり、一発逆転の希望に飛びついた多重債務者たちへ、次々に浴びせられる利根川語録。

読者が感じていた金にまつわるあれこれを、漫画的に誇張した形で提示してくる利根川先生の存在は、金に振り回される人間たちの漫画『カイジ』を象徴するものでした。

加えてカイジに敗れ舞台を降りる際、究極の罰ゲーム『焼き土下座』に臨むのですが、これを意地でやりきって示した矜持と覚悟も彼を単なるやられ役では終わらせませんでした。

目の付けどころが面白い『中間管理録トネガワ』

どちらかというと本編では悪役、強面の役回りだった利根川。彼を主人公にしたスピンオフとなったら、そのキャラクターに沿った物になりそうですが、『中間管理録トネガワ』はコメディです。

多重債務者たちに人生のなんたるかを語り、黒服たちを従える利根川。しかし、帝愛グループの絶対的ボス・兵藤会長には頭が上がらない。その様は、まさに上と下に挟まれた中間管理職。加えて兵藤会長が本編で下した、「管理はできても勝負はできない」という利根川への評価にもつながります。

  • 大詰めで弱い人間は信用できぬっ………!
    つまりそれは管理はできても勝負のできぬ男………
    平常時の仕事は無難にこなしても緊急時にはくその役にも立たぬということだ
  • 剥げたな………
    おまえの化けの皮……!
    二流だ……!
    しょせんおまえは指示待ち人間…!

 おそらく、こうした設定から作者や編集部は、中間管理職としての利根川をキャラ付けしていったんんじゃないでしょうか。

没個性な黒服たちの個性が光る

『中間管理録トネガワ』は兵藤会長の思いつきやわがまま、意外に現代っ子な黒服たちの奔放ぶりに利根川が振り回され、頭を抱えるのがパターンです。しかし、それだけだと早晩ネタが尽きてしまいます。

そこで作者は黒服たちを利用しました。第1話で「お前ら見分けがつかん。自己紹介しろ」と利根川に言わせ、まずは彼らに名前と役割を与えます。ここで最初に利根川にツッコませた『左衛門三郎 二郎(さえもんさぶろう じろう)』こそが、後に限定ジャンケンを発案します。

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『中間管理録トネガワ』1巻より

左衛門三郎は、黒服軍団の中では若手だけれど、仕事ができて同期の出世頭と目されています。それゆえに生意気なところもあり、先輩黒服との間で揉めることも。

個性がなさそうで個性的な黒服たちの存在により、利根川がほとんど出てこない回でも話を回せて、最後に利根川が登場してオチがつくパターンもできています。

利根川のリアクション芸だけでは正直つらくなってきたかなと思う部分もあります。特に4巻は少しパワーダウンを感じました。ただ、部下の結婚式回など黒服たちのキャラクターを掘り下げれば、まだ新たな鉱脈が眠ってそうな予感もあります。

そんな『中間管理録トネガワ』ですが、電子書籍サイトBook☆Walkerでは12月19日23時59分まで、1~4巻セットを10%オフで販売しています。この機会に読み始めてみませんか。

中間管理録トネガワ(1) (ヤングマガジンコミックス)
萩原天晴,福本伸行,橋本智広,三好智樹
講談社
5つ星のうち4.5
5つ星のうち4.5

価格:540円
2016年 12月 11日 23時 21分現在
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