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『さよなら、シリアルキラー』バリー・ライガ

読書

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『さよなら、シリアルキラー』は、主人公の少年・ジャズが住む田舎町で女性の死体が発見される場面から始まる。遠くから現場を眺めていた彼は、直感的にこれが連続殺人事件の一部だと察する。だが地元警察は当初ジャズの言うことに耳を傾けないい。ジャズは親友のハウイーを引っ張り込み事件の捜査を開始した。

なぜジャズには、この事件が連続殺人だと分かったのか。彼の父親・ビリー・デントは、21年間で123人を殺した連続殺人鬼だった。その息子として生を受け、13歳まで父の“仕事”を間近で見学させられてきたジャズは、殺人鬼の心理に人一倍詳しくなっていた。

ビリーは4年前に捕まり終身刑を言い渡された。それ以来ジャズは父親と会っていないが、犯罪史上に残るシリアルキラーと過ごした13年間は、彼の心に消えない傷と深い闇を植え付けた。

普通の若者に成長したように見えるジャズだが、内心では周囲に向かって常に演技をし、自分に都合のいい反応を引き出そうとしている。また会話の中では相手の痛いところを探り、優位に立とうと画策。

親友のハウイーや、恋人のコニーに対しても完全にはそこから抜け出せない。

果たしてジャズの言ったとおり第2、第3の殺人が起こり地元警察も連続殺人事件として捜査を開始。さらにジャズは、この犯人がビリーの事件を真似た模倣犯であることに気づき、苦悩を深める。捜査の過程で犯人と接触したハウイーが大怪我を負う事件も起こり……。

 

タイトルと物語のあらすじから想像するような、おどろおどろしい展開はなく、むしろ殺人事件をめぐる血生臭い話でありながら読後感は爽やかですらある。それは本作品が少年の成長と自立をこそ主題にしているからだろう。

捜査の過程でジャズは父親ビリーと会う決意を固める。それは新たな敗北の記憶となって彼に刻まれるのだが、同時に第2部(本書は3部作の1作目)の物語への旅立ちともなる。

過去の呪縛から自分を解き放ち、今とこれからを生きるという意味では、ジャズの恋人コニーのセリフが直截的だ。彼女は黒人なのだが、学校の演劇で奴隷役を演じることになった。そのことに抵抗はないのかと尋ねるジャズにコニーは「アフリカのことは気にしてない」と言う。

「もちろん、アフリカで苦しんでいる人たちのことは心配してる。戦争とか虐殺とか飢饉とかでね。だけど、ほかの大陸で苦しんでる人たち以上に心配してるわけじゃない。奴隷制のこともそう。(略)でも、わたしが気になるのは、いまのことだけ。いまとこれからのこと。過去のことは気にしない。わかる?」

『さよなら、シリアルキラー』は犯罪史上に残る連続殺人鬼に育てられた少年が、父親に教わった技術と心構えで連続殺人に挑むという一風変わった話だ。だが荒唐無稽なガワをはいでみれば、残るのは圧倒的な父親の影響に怯えながらも、そこから抜け出し自分の人生を始めようとする少年の姿。

父殺しの通過儀礼を描いた普遍的な物語と言える。

 

さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)

さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)

 

 

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