読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『エイトメン・アウト』

映画感想

f:id:o_aiue:20160107183538j:plain

1919年のワールドシリーズ。レッズに3勝5敗で敗れたホワイトソックスのメンバーは、1年後に八百長で大陪審に呼び出される。8人が永久追放されたブラックソックス事件を、事実を基に描く。


健全なプロ意識は健全な報酬に宿る

映画としては特別面白いとも、よく出来てるとも思わなかったが、ブラックソックス事件を直接題材にしているのは、あまり見たことなかったな。アメリカでは沢山あるのかも知れないけど、輸入されてくるのは限られるから。モチーフにした、参考にした作品は沢山ある。

フィールド・オブ・ドリームス』は、ジョー・ジャクソンが出るけど、事件そのものを扱ってるわけではない。

当時のホワイトソックスワールドシリーズに出場するくらい強いチームではあったが、オーナーのコミスキーはケチで、選手への優勝ボーナスを安物シャンパンで現物支給するような人物だった。ユニフォームのクリーニング代も選手の自腹にし、そのため彼らは土の着いた黒いソックス(ブラックソックス)でプレーしていた。

当然そんなことをすれば選手たちは不満を持つし、反感も覚える。1塁手のチック・ガンディルが賭博師の誘いに応じ、1人1万ドルで八百長を引き受けるようチームメイト誘ったのも、むべなるかなである。

この事件では8人の選手が球界から永久追放された。そのうち3塁手のバック・ウィーバーは事件への直接関与を否定したが、八百長を知りながら報告しなかったとして半ば連帯責任を取らされた。特権的な立ち位置の主役はいないが、映画はバックと少年たちの交流などを交えながら描かれる。

 

多くの選手が八百長の誘いに乗ったのはチームのエース、エディ・シーコットが参加したためだった。エースが八百長するなら、真面目に戦っても馬鹿らしいと感じる選手はいた。映画ではエディが八百長に参加した理由をコミスキーが30勝達成の出来高払いたくないため、肩の疲労を取る名目で長期の休み与えたからとされている。

しかし現在残っている記録によれば、これはアンラッキー・エイト(悲運の8人)をドラマチックに見せるため脚色された伝説であると、推察される。

一方で12人家族の大黒柱だったエディが、ホワイトソックスの安い報酬に不満を持っていたと考えるのは難しくなく、やはり動機は金だったと言える。

金で始まった関係は金で終わる

主力の大半が買収されて始まったシリーズだが、実は開幕前から八百長の噂はあった。ホワイトソックスとレッズどちらが勝つかの賭けで、それまでホワイトソックスが有利だったのに急にレッズへ大金が賭けられたのだ。オッズが大きく動き、すぐさま不信感を持つ人間が現れた。彼らはシリーズ中、明らかに手を抜いてると見られる人物、不自然なエラーを重ねる人物をリストアップしていった。

そうこうしているうちにチックと繋がっていた賭博師が破産する。彼は元締めから預かった選手に払うための金を使い込んでいた。

いつまで経っても約束の金が手に入らない選手たちは苛立ち始める。そもそも事前の話では、わざと負けるのは2試合だけでいいという話だったのに、途中から5試合棄てろに変わった。コミスキーのケチが嫌で八百長に乗ったのに、結局こちらでも約束の金が支払われない。

やってられるかとホワイトソックスの選手たちは八百長の約束を放棄し、全力でレッズと戦い試合に勝つ。次戦もこの勢いでと鼻息を荒くする選手たちだったが、事態はマフィアも絡む話に発展しており、選手たちは強迫を受けたとされる。

映画では翌日の先発が予定されていた投手レフティ・ウィリアムズに謎の男が近づき、妻に危害を加えられたくなければ明日の試合を棄てろと脅す。『エイトメン・アウト』は同名のノンフィクションを原作としているが、この部分は作者が自分の脚色だったと認めている。

レフティが打ち込まれたホワイトソックスはレッズに敗れた。

嘘だと言ってよジョー

八百長に関与しているとされた8人は1年後、大陪審に呼ばれ証言を求められる。

8人の中で最も高い人気を誇っていたジョー・ジャクソンが裁判所から出てくると、1人の少年が「本当じゃないよね、ジョー?(It ain’t true is it, Joe?)」と言い、ジョー・ジャクソンは「残念だけど坊や、本当のことらしい(Yes, boy, I’m afraid it is.)」と返したとされる。

これはエディの出来高未払い理由と同様、アンラッキー・エイトの悲劇を盛り上げるための脚色で、ジョー・ジャクソン本人は後に「そんな会話はなかった」としている。

しかし、この話がアメリカ大陸の反対側まで伝わるうち噂に尾ひれがつき、少年は「嘘だと言ってよ、ジョー!(Say it ain’t so, Joe!)」と叫んだことにされた。

フィールド・オブ・ドリームス』の原作『シューレス・ジョー』でも有名なセリフ。

“Say it ain’t so"は今でもスター選手が何かすると紙面で使われるくらい、印象に残る言葉となった。本当は裁判所の周りに子供なんて1人もいなかったのに。

その後の8人

最初にも書いたとおり8人は永久追放された。最初に八百長話を持ちかけたチック・ガンディルは1919年に引退していたが、残りの7人はこの件が元でメジャーリーグを去った。

8人は大陪審で証拠不十分のため無罪とされたが、前代未聞の出来事に権威と信用の失墜を恐れたリーグは、ケネソー・マウンテン・ランディス判事をコミッショナーに迎え入れる。ランディスは従来の体制を改革し、球界の最高権威である単独コミッショナー制度を確立。現在まで続くシステムを作った。

 

厳格な人物と知られたランディスは、内外にリーグの規範を示すため8人に厳罰を科した。一方で当時、八百長自体は決して珍しいものでなく、他のチームでも疑われる選手はいた。しかし、それらに関しては目をつむり(一度に大量のスター選手が消えるとリーグの存続自体が危ぶまれた)、八百長の原因ともなったドケチのコミスキーにはお咎めなしとしたため、永久追放された8人はアンラッキー・エイト(悲運の8人)と呼ばれるようになった。

終身コミッショナーとして辣腕を振るったランディスだが、保守的な人物としても知られ黒人のMLB参加に最後まで反対した。アフリカ系アメリカ人のMLB参加が認められたのは、ランディス死去の数年後だった。

球界を追放された選手は姿を消したり、セミプロのチームで現役を続けたり、まったく関係ない職に就いたりと様々だ。事件への関与を否定していたバック・ウィーバーは、追放後も八百長への関与を否定し、復権を求め続けた。

アンラッキー・エイトが再び注目を集めたのは2001年。切っ掛けはイチローだった。メジャーリーグデビューしたこの年、イチローは開幕から驚異的なペースで安打を量産し、新人のシーズン安打記録は何本だと話題になった。

MLBは過去の膨大な資料を引っ繰り返し、それまで最多と思われていたロイド・ウェイナーの223本より、ジョー・ジャクソンが1911年に記録した233本のほうが多いことを突き止めた。イチローは242安打で90年前の記録を更新した。

誠意は言葉ではなく金額

ブラックソックス事件は90年以上前の話だが、人に使う金をケチって危うく自分のクビが飛びかける経営者っていうのは、相変わらず現代でもいる。ベネッセ情報漏洩問題とかね。上のほうでも書いたとおり"健全なプロ意識は健全な報酬に宿る”というところがあって、プロとしての矜恃を持てやと口で言うのは簡単だが、そうできるほどの報酬を与えているか。

食うのも困るカツカツの状態でプロとしての矜恃、プロ意識を求めても、それは無理だよ。マスコミの給料が高いとよくネットでは批判されるが、あれも本来はメシ奢られたくらいで提灯記事書くなよって意味もある。

どれだけ人を安くこき使って利益上げるかが、有能な経営者の条件だと思ってる人も多いし、こういう事件はなくなりそうにない。

広告を非表示にする